天鼓「鷹の会」

 第十八回鷹の会は、「童子の舞」を主題とした三曲が演じられた(8月5日、福岡市、大濠公園能楽堂)。なかでも、「天鼓 弄鼓之楽」は照度を落とした「ろうそく能」の型式をとり、観客はシテを演じる鷹尾章弘の緊張感に満ちた舞に引き込まれた。
 天から降ってきた鼓を持つ少年天鼓が、その鼓を差出せとの勅命に背いて殺される。それきり鼓は鳴らなくなったのを、老父が呼ばれ打ったところ素晴らしい音が響く。感動した帝は、天鼓を処刑した堤で盛大な音楽葬を行い弔うと、天鼓の亡霊が現われて喜びの舞を舞い、成仏する。
 舞台には登場しない帝の身勝手な行為をベースに繰り広げられる、親子の情愛劇であり、復讐劇でもあろう。前シテの老父、後シテの少年天鼓、対極の役を静と動、確かな舞で演じきった鷹尾。特に後半、ろうそく能ならでは生きる金箔(暗いので金が明かりの役目を果たす)に覆われた重厚な唐織りの装束で軽々とした足運びを見せ、頭上に袖を返して水中に沈んでいく最後は幻想的でもあった。
 だが忘れてならないのは、この演目は聴覚に訴えるものであること。前半の地謡は通奏低音の如くあくまでも低く、囃子も抑えた音色で通す。後半の喜びの舞になってからとの対比は興味深い。鼓の名を配すからか、大小鼓の掛け合いは小気味よく響き、乗っていた。大鼓の白坂保行は若いのに古武士然とした姿が常より印象的だが、シテと奏で合う、天にも響けとばかりの鼓の音が冴え、少年の無念と諦観を私達に伝える。
 権力に翻弄されたから弄鼓之楽とも受け取れるが、見終えた後の清々しさは怨みよりもその先にある安らかさを示唆してくれたようで後味のよい思いが残った。

築城則子・染織家
2009年8月21日
朝日新聞夕刊 掲載